『天使の翼』第4章(4)

 …………瞼を透けてくる光が、いつの間にか踊るのをやめていた。
 わたしの周囲は、心地よい静寂に包まれている。
 ――と、体ががくんと揺れて、わたしは、目を開いた。
 ……徐々に記憶が蘇り、自分の見ているもの――船室の風景が、理解できてくる……刹那、今回もまた、わたしの夢の定番とでも言うべき、祖母の夢を見たことが心に留まる……
 他の船客達も、もぞもぞと体を動かして、覚醒の儀式を始めている……
 船窓を見やると、わたし達の船は、すでに着三次元ステーションの係留棟――配給庁の聖薬検査所にドッキングしていた。
 わたしは、珍しく、深い夢と眠りの世界に陥っていたようだ。1WOPの聖薬を摂取しても、旅の間中覚醒していることすらあるわたしが……
 わたしは、シートの上で体をひねって、窓から船尾方向をうかがった。――わたしの見たかったものは、そこにあった。
 ポート・シルキーズの太陽と、その第四惑星――
 惑星は、まるで陸地などないかのように青く輝いている……事実、この星に大陸――少なくとも水面上に顔を出している大陸はなく、無数の列島・群島は、船がもっと接近しないと見えないだろう。ポート・シルキーズの島々は、かつて海水面上昇前、今とは比べものにならない広大な地表面が見られた頃の、高山帯であり、山頂部だ。島々からは、人類の植民以前に高度文明を担った生命体の存在したことをうかがわせるものは何も発見されていない。それが、標準年でたかだか五〇年程前、水面下の大陸部の海洋考古学調査が行われ、まったく予想もされていなかった大発見――石と鋼鉄で出来た巨大都市が見付かった……人類とは全く異なる建物の構造、文字システム……そして、肝心のその生命体の姿形は何一つ分かっていない。しかし、これだけで十分でないか――観光資源としては……

 以来、水面ばかり多くて、伯爵家の財政的なお荷物でしかなかった恒星系は、一躍金のなる木と化した。そして、五年前にはとうとう、マウリキス伯爵の新しい居城が、水面から直接立ち上がるような優美なクリスタルという姿で築かれ、伯爵領の新首都となったのである。
 ……ポート・シルキーズの青い水球――そう呼ぶのが、ごく自然なことに思えた――は、しかし、俗世の思惑とは何のかかわりもなく、世俗化した観光地というわたしの先入観を払拭して、わたしを惹きつけた。
 そして、惑星の自転に合わせて刻々と夜の帷を引いていく夕刻線が一巡した時、シャルルとの再会が待っている……初めて二人だけで会う……どんな雰囲気になるのか……先にひかえた重い使命を実感できないわたしは、愚かなのだろうか?……