『天使の翼』第8章(64)
次の瞬間、わたしの首筋を吹き抜ける風圧と共に、暴力的な勢いで、相当の重量物が跳ね倒されるような音が轟いた。
思わず首をすくめていたわたしは、振り返って、薄れていく爆煙の向こうに仄暗い廊下を見た。それは、扉が吹き飛ばされて、ぽっかりと開いた空間だった。
記憶の中の時間は引き延ばされているが、実際には、間髪をおかず、雷光のごとく男達がなだれ込んできた。
『快楽』を突然中断させられ、二人そろって口をあんぐりと開けたスカルラッティと修道僧に、無防備な状態から立ち直る暇はなく、二人共たちどころに両脇を抱え込まれていた。
イエロー・トリプルの軍服を、これほど頼もしく、また、身近に感じたのは、無論わたしにとっては初めてのことだ。査察庁軍が我が銀河の頼もしい守護神であることは、観念的には分かっていても、実際に体験を通して実感するような事態は、滅多にあることではないだろう。
シャルルの約束通り、間一髪のところで到着した兵らによって、わたし達の拘束は解かれた。
――さて、いよいよ、シャルルによってスカルラッティの逮捕される時が……と、その時、一人の中年の、帝国官吏服を着用した男性が、進み出た。
「わたしは、銀河帝国政府、聖薬査察庁の特命査察官グリンフィールドだ――」
「……」
スカルラッティが、もごもごと口を動かした――「我は宰相なるぞ」、とでも言いたかったのだろうか。この状況では、全く無意味だし、そもそも、司法権の独立は、なん人といえども侵すことはできない。
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