『天使の翼』第8章(59)

 頭の中に嫌でも見たくないイメージが浮かび上がってくる――多くの女性たちの遺髪、そして彼女らの声の録音が、整然と収納された……死の蒐集キャビネット……
 わたしの視線を感じたのか、スカルラッティが頷きかけてきた。
 「妹に会いたいかね?」
 わたしは、そして、たぶんシャルルも、ごくりと唾を飲み込んだ。
 「チャールズ、お前には、最後に一目カレンと逢わせてやろう」
 スカルラッティとの会話についていくのは容易ではない。一体、スカルラッティは、わたしとシャルル、どちらと会話しているつもりなのか……
 スカルラッティは、わたしの顔を見て、全く場違いな『優しい』笑みを向けてきた。何故、今、このような表情が……
 わたしの心は、押し寄せる嫌悪感の津波に溺れた。
 「シャンタル、お前は、もうずっと、カレンと一緒だよ」
 それがどういう意味なのか……明らかに、これから先、わたしとシャルルに対する処遇――他に適当な言葉を思い付かない――は、別々の道を辿る、という事。スカルラッティにとって、シャルルは、わたしという商品にくっついてきたパッキンに過ぎず、捨て去られる運命……その方がましだ!
 ……そして……スカルラッティは、相変わらず『逢わせてやろう』『一緒だよ』と、まるでカレンが生きているかのような、現在形を使って話している……一体――

 スカルラッティが、咳払いした。
 そして、シャッターの前の、今にして気付いたけれども、コンソールのようなものの前に立って、すぐにもボタンを押さんとして、わたし達の方に、ニッと、笑みを向けてきた。それが笑みと呼べればだが、得意満面の……
 それは、コレクターが、自慢のコレクションを客人に見せびらかそうとする姿に通じていた……内容のはなはだしい異常性を考えなければだが。
 わたしは、スカルラッティがボタンを押した瞬間、ぎゅっと目を瞑った。

 ……