『天使の翼』第8章(43)
わたしとシャルルは、頭の中こそフル回転していたものの、表面は神妙な面持ちで、権力者の謁見を待つ列の最後尾を進んだ。
「少なからずや、この者達がいる!」
スカルラッティは、そう言って、わたし達を招き寄せた。
「余興に困ることはあるまい――」
わたしは、顔の皮膚に笑みを張り付かせながらも、突然の啓示に打たれていた。
シャルルも気付いたようだ。
『少なからずや』という、ありそうで実はあまり会話には出てこない表現、これをスカルラッティは多用している。いわば、スカルラッティの無意識のサインだ。――POPSに届いたわたし宛の招待状にあった『少なからずや返事だけでも』という表現に始まって、何回となくスカルラッティの口の端に上ってきた表現……だいぶ前から心の片隅に引っ掛かっていて、今ようやく気が付いた――
わたしは、突然手を摑まれて、我に返った。
(サンス大使!)
――わたしより少し若い……貴族的な風貌といってはそれまでだけれど……女性的な美しさ……でも、まったくあたたかみ、人間味が感じられない……
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