『天使の翼』第8章(35)

 「あの悪の手下には、女性の相棒がいた――」
 わたしは、ハッとした。今頃気付くなんて、わたしはなんて――
 「君は、ここで待っていてくれ――」
 シャルルは、わたしに反論する隙を与えず、バッグとギターをその場に残して、一気にスペース・ヨットまで駆けると、男の額からナイフを抜いて、血糊を男の上着でぬぐい、すっと開いていたハッチの中に姿を消した。
 自分の心臓の鼓動だけが友達の、長くつらい待ち時間が過ぎて、再びシャルルがハッチに姿を現した。わたしの方を向いて、無言で手招きしている。
 わたしは、荷物を引っつかむと、木陰を飛び出して、シャルルの傍を離れたくないという一念で駆け付けた。
 シャルルに導かれるまま狭いヨットの中の廊下を行き、操縦室に入った。
 「他には誰もいない。そして、これがあった」
 彼の指差す方を見ると、コンソールの上に、衝立状に写真入れが置いてある――偶然だが、わたしの兄の写真入れと似ている……
 一枚は、悪の手下男女二人組みのペアの写真……こんな二人でも、強い絆で結ばれていたのか……
 そして、もう一枚……
 目を凝らして見たわたしは、ショックを受けた。……どう考えても、それは、女性の方の、生きてはいない――死に顔……

 水に濡れた髪が、不自然に真っ白な顔に張り付いて……彼女は、湿りを帯びて黒光りしている岩に背を預けていた……
 洞窟隊商路が突然の出水で水没した時に溺死したのだ……だとすれば、手下の男性は、執念深くわたし達への復讐を誓っていただろう……