『天使の翼』第8章(31)

 会場を後にしたわたし達は、宿泊施設へといったん戻る前に、散策する風を装って、いくつかの点を話し合った。
 第一に、スカルラッティは、わたし達のことをどう思ったであろう?
 どうしても気になるのは、わたしが、POPSで歌ったデイテだと気付かれてしまったのではないか、ということ……スカルラッティの顔の表情を見ているだけでは、皆目見当が付かない。唯一スカルラッティの心底が透かし見えたのは、わたし達の歌の最中に、瞬間だが、険のある表情を見せたこと……
 それは、スカルラッティの犯罪をコインの裏側にたとえるなら、わたし達の歌が、まさにその表側を表現したものだった故なのか?
 それとも……わたしをデイテだと看破した故なのか……
 「その可能性は否定できない――」
 シャルルの答えは、わたしを安心させてはくれなかった。
 「――人間の直感を見くびっては、大きな禍根を残すことになる」
 (だとすれば、どうすればいいのだろう……)
 「スカルラッティは、君は、おとり捜査で送り込まれてきたと思うかも知れない」
 「おとり捜査?」
 「そう。まさか単独で敵陣に乗り込んできたとは思うまい。それが、かえって、僕たちの安全保障となる」
 「!……そうだとすれば、素知らぬふりをして、矛先をかわそうとするはずだわ……でも、それじゃあ、何故、わたし達を晩餐に招待したのかしら?」

 「一つには、そうすることが、逆に、彼のアリバイとなる――全く気付いてもいない――最初から知ってもいない、という意味で。
 そして、二つには、どうしても、どの程度罪状を摑まれているのか探りを入れたいという不安感――欲求には勝てなかったんだ……」
 わたしは、身の安全という意味では、かえって、デイテだとばれてしまったほうが良いのでは、とさえ思った……。そうでない場合は?
 「もし、僕らに実際難に会った妹がいる、もしかしたら、自分の犯罪の犠牲者かも知れない、と考えた場合は――」
 「その場合は――」
 「スカルラッティは、たぶん、僕らが、彼を疑ってここに姿を現した――そんな大胆なことをするとは思わないだろう。偶然だ、と思うはずだ……そうなると、スカルラッティの選択肢は二つある」
 「……」