『天使の翼』第6章(21)

 翌日、シャルルの携帯端末の着信音で――そうと分かったのは、しばらくしてからだけど――、わたしは、ハッと深い眠りから覚めた。
 体中に、ぐっすり眠ったという実感がある――どうやら寝過ごしたよう――ミロルダ時間に合わせておいた腕時計を見ると、短針が午後の三時を差していた……
 ふーと大きなため息が出る――つい先日までは、洞窟という名の荒野で野宿していたのだ……安らかでたっぷりとした睡眠を体が求めていたのだ。帝国法典の時間法で、すべての惑星系の一日は24時間と定められている。ミロルダの自転周期は、テラ=アケルナルの1・25倍だから、わたしは、かなりたっぷりと眠ったに違いない。
 「エージェントから連絡が入った」
 シャルルの言葉に、わたしは半身を起こした。
 「――あの日、君が飛び入りで歌った日、POPSにスカルラッティ宰相が宿泊している。Mt.エベレストだそうだ」
 「えっ?」
 「その昔、人類発祥の星地球に、エベレストという名の惑星最高峰があったんだ。そんな大昔から、ホテルなどの宿泊施設では、VIPの重要度を山の高さで表わしていた……その慣習が、連綿として今に続いている」

 わたしたちの探索に浮かび上がってきた人物が、実際にPOPSに宿泊していたと言うことは、とても偶然の一致で済ませられることではない……もちろん状況証拠に過ぎない訳で、第三の人物=真犯人を否定するものではない。それに、どんなに状況証拠が公爵を追い詰めようとも、彼が嫌な奴だとしても、本当に、スカルラッティが本人も抑制できない心の闇に犯されているとは、まだ実感が湧かないのだ。