『天使の翼』第6章(13)

 もはや、わたしの両親のケースと合致するパターンであることに疑いなかった。そして、男爵の駄目押しとも言える言葉が続いた。
 「それらの事故が、人為的なもので、何らかの犯罪集団――その多くは、宇宙賊として片付けられていますが――犯罪の関与が疑われている場合が、確か、わたくしの記憶では三割を超えているのです」
 「それらの事故で、はっきり殿下や父君のご招待なさった吟遊詩人が乗っていたと分かるケースはありますか?」
 シャルルが、鋭く切り込んだ。
 「残念ながら分かりません。わたくし共が、料金先払いで、航宙券を手配したり、まして、チャーター便を仕立てるようになったのは、ごく最近のことなのです。それまでは、吟遊詩人の方々は、自由民特権の特殊恒星間交通権を使って、自分の選んだ船に乗ってミロルダに来ていたのです。……もちろん、コンピューター、その事故を起こした航宙会社のコンピューターにメモリーが残っていて、わたくし共の過去の招待リストと照合することができれば、話は違ってきます」
 「一件か二件でもマッチングするケースがあれば、吟遊詩人を付け狙う偏執的な人物の存在がクローズ・アップされますね――」

 そこへ、ノックの音とともに、マリピエーロ宮内相、そして、恐縮しきった首都警察の指揮官が入室してきた。
 「殿下……」
 指揮官は、一通一通証拠品袋に入った白い封書の束を男爵の前のテーブルの上に置いて、跪いた。
 若き男爵は、指揮官に向けて柔和な表情を崩すことなく言葉をかけた。
 「『白い封書』への対応、少しばかり後手に回ったようです」
 「申し訳ございませぬ」
 男爵は頷いて――
 「後でこの事件を再検討しますが、宮内長官共々いったん下がってください」
 広間は、再びわたし達だけとなった。
 ふと窓の外を見ると、ミロルダの太陽は幾分傾いたものの、ますます暑い光景が広がっている。