『天使の翼』第6章(12)
「――確か、毛羽立った上質の紙で、手書きのインクで相手の吟遊詩人の名前がしたためられてあった……肝心の招待状そのものは、ホテルだとか宇宙港だとか、手近のランドマークが指定されているだけだそうで、差出人を暗示するような記述、どこの誰か特定できるような記述は一切ない……しっかりとその名を聞いておけば良かったのですが、差出人の名前だけはちゃんと書いてあるとのこと……確かに不自然といえば不自然ですが、その時は、まさか犯罪に絡んでいるなどとは思いもよらず、さして気に留めることもなく、父と、吟遊詩人の招待合戦――と言うと大仰ですが――招待合戦を繰り広げる競争相手がいるようだ、などと話していました」
……今となっては、白い封書の中身を見ようともしなかった自分の潔さが悔やまれるけれど、わたし達のケースと酷似していることは、否定しようがない。
「――次に、あなた方の不時着事故です。……先ほど、シャルル殿が『パターン化できるような繰り返し』とおっしゃった――」
わたしは、礼儀も何もなく、わたし達と男爵を隔てるテーブルに手をつき、グッと男爵の方へと身を乗り出していた。頭の中は、惑星系で起きた恒星間連絡船の爆発事故のことでいっぱいだ……
「シャルル殿、デイテ殿、このミロルダ星の近辺、半径100光年程の範囲が、帝国内でもきわめて保険料率の高い特異星域だとはご存知でしたか?」
「いえ……」
とっさのことで、意味が分からない。
「ブラックホール=超新星特約よりも、保険料率が高いのです」
「……」
「つまり、宇宙船の事故多発星域なのです」
何と!わたしは、再度、シャルルと顔を見合わせた。
「わたくしも、男爵のタイトルを継ぐ前に気になって調べたことがあるのですが、不思議なことに、事故は、多く惑星系内で起きている――」
――わたしの、脳細胞は、今にも爆発しそうだった。
「――宇宙船の事故といえば、誰しも生存者ゼロの悲惨な事故を思い浮かべますが、何故か、不時着事故が非常に多い――もちろん、多いといっても、統計的な意味でですが。その割合は、不時着プラス爆発炎上というケースも含めると、さらに高くなります――」

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