『天使の翼』第6章(11)

 マリピエーロが退出するのを待って、シャルルが――
 「実は、殿下、どうしても真実が知りたくて、首都警察の指揮官に、内密で白い封書を見せてくれるよう頼んであります。こんなに早く殿下とこのことをお話しできるとは思ってもいなかったので」
 男爵は頷いた。
 「もちろん、咎めはいたしません」
 「殿下に、もしや思い当たる節はございませんか?――レプゴウ男爵家の招待が断られるようなケースで、背後に特定の人物がいないか?あるいは、招待に応じた吟遊詩人が姿を現さなかったケースで、何か不審な点――パターン化できるような繰り返しはなかったか?」
 ――『パターン化できるような繰り返し』――的を射た表現だが、一介の吟遊詩人が使う言葉としては、いささか専門的過ぎはしないか……
 男爵は、しばし、俯いて考えを整理しているように見えた。……しばらくして面を上げた彼の表情には、何か大きな一歩を踏み出したような潔いものが浮かんでいた。
 「二つ――いや、三つ程申し上げなくてはならないことがあるようです。……いずれも、今までは、断片的で連絡性のない情報だったので、あまり深刻に考えたことはなかった。たぶん、父も……。しかし、今回、あなた方が、あなた方自身の経験が、ジグソーパズルの大きなピースの固まりとなって、状況が一変しました。何か、ひどく良くない全体像が見えてきたような気がする――」

 わたしは、固唾を呑んで男爵の顔を見守っていた。ふとシャルルの方を見ると、彼も、わたしの方を向いて頷いてきた。
 「――まず、白い封書の招待状ですが、前に何度か――三、四回だったと思いますが――当家に招いた吟遊詩人から聞いたことがあります。一度封書の現物を見せてもらったこともある」
 驚くべき情報だった!