『天使の翼』第6章(10)
若き男爵は、その美しい顔の眉間の辺りにくっきりと縦じわを浮き上がらせて、何事か思い巡らしていた。表情が一変している。歌好きというだけあって、感受性が豊か――表情が豊かなのだ……
「ちょっと失礼――」
やおら、男爵は、手近のテーブルの上にあったインターコムに手を伸ばした。
「――マリピエーロを」
そして、彼は、わたし達の方へ決然たる顔を向けてきた。
「もし、その招待状の封書と、あなた方を襲った船の積んでいた白い封書が全く同一の物ということになると、これは大きな問題です。一つに、わたくし達が単なる宇宙賊と思っていた輩が、実はそうではない、ということになる。二つには、白い封書を使って吟遊詩人を招待し、それが駄目と分かると、わざわざ外宇宙まで多額の経費と手間暇をかけて追ってくる、吟遊詩人に対してきわめて偏執的な思いを抱いた人物がいるということです……」
男爵の明晰な頭脳は、状況を把握するのが早かった。物言いまで、シャルルと似ている。
と、マリピエーロが、何事ならんという顔つきで入室してきた。
「現場で白い封書を押収したとか?」
宮内相は、たちまち自身の失態を察知して、恐縮の態を取った。
「申し訳ござりませぬ。御報告が遅れました」
「そのことは良い。些細なことが重大な意味を持つことがあるのだ。主君に何を伝え、何を伝えないか――その取捨選択は永遠の課題です」
「ははあ」
「すぐに白い封書をここに持ってきてください」

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