『天使の翼』第6章(9)
「そういう訳で、もし招待した歌い手が姿を現さなかった時、私達は、それはもう縁がなかったものと思ってあきらめています」
わたしは、つられて笑みを浮かべそうになり、次の瞬間、心の中を稲妻のように衝撃が走った……
――『もし招待した歌い手が姿を現さなかった時』
それは、招待状を開くことができなかったことだけが理由ではないのではないか?
シャルルの顔を見ると、彼の表情も険しくなっていた。
「殿下、実は疑問な点が――『疑問』という言葉で表わすには、あまりに重大なことが一つあります」
聡明な男爵の顔から、さっと笑みが引いた。心配そうな――不安な、といってもよい顔で、交互にわたし達を見詰める。美しい顔立ちなだけに、表情の変化が際立って見えた……
「殿下には、本当のことを申し上げる。今から申し上げることは、殿下の治安部隊にも、マリピエーロ宮内相にも、まだ話していません」
「……わたくしからも話さない方が良い、ということですか?」
「お話しするにつれ、お分かりいただけると思いますが、きわめて微妙な問題を含んでいるのです」
……わたしは、胸がどきどきして、呼吸が苦しくなってきた。シャルルの物言いは、ほとんど一介の吟遊詩人のそれとは思えなくなってきている……どこまで秘密を明かすつもりなのだろう……
「まず、端的に申し上げる。ポート・シルキーズで私達が受け取った招待状の中に、白い封書に手書きされたものがありました――」
――気のせいだろうか、男爵がごくりと唾を飲み込んだような気がした。
「――そして、その白い封書と全く同一と思われる封書を、私達を襲った船が――スペース・パイレーツということになっていますが――積んでいたようなのです」
その後に、重い沈黙が垂れ込めた。

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