『天使の翼』第6章(8)
「それと、もう一つ――」
若き男爵の笑顔が、一段と大きくなった。
「――あなた方が今ここにいるということは、あなた方が、歌の才以外にも、多方面に機知に富んだ方々だという証明です」
わたしも、そしてシャルルも、正直言って何のことだか分からなかった――
「申し訳ない。失礼な言い方だったかな――父もわたくしも、歌は、それだけで存在しているのではない、必ずそれを歌う人間があってこそ存在しているのだ、ならば、最も大切なのは人間だ!と考えています」
「……」
「実は、あの赤黒い岩の招待状、開けて、三次元映像メッセンジャー――旧式のです――見ることのできる人、十人に一人もいないんですよ」
これは驚いた。わたしは、シャルルが、ポート・シルキーズの人気のない海岸で、一つ一つ推理を積み重ねて、あの赤黒い岩の招待状を開いた時のことを思い出していた……あの時、大真面目なシャルルの様子に呆気に取られていたのだけど、今にして思えば、シャルルだからこそ開くことができたのだ――
「シャルル――弟が開けたのです。わたし一人では、無理だったかも……」
男爵は、にこりとした。
「そんなことはない。シャルル殿が招待状を開くとき、あなたも傍にいたのでしょう?」
「え、ええ……」
男爵は、頷いた。
「シャルル殿がうらやましい。あなたのような素敵な女性が傍にいてくれたら、わたくしの政治は、もっとましなものになるでしょうに、ハハハハ」
屈託のない笑い声だった。わたしは、何と言ってよいか分からない……

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