『天使の翼』第6章(5)
扉が開こうとしている。
そして、その扉の陰から現れたのは、一人の青年なのだが……わたし達は、彼の不自然な動きに、すぐに気が付いた……彼は、滑らかにすべるようにして、体を上下左右に揺することもなく、部屋に入ってきた……足を動かしていない!そして、その青年が家具の間を縫ってきて、足元が見えたとき、分かった――足が宙に浮いていたのだ。
「……浮游機(エア・バックル)――」
わたしは、思わず小さく声に出してしまった。体に障害のある人が使うマシンだ。マシンといっても、その名のとおりバックル状で、着衣の下に隠れている……
戸惑いながら立ち上がったわたし達に、青年は、軽く一礼して、座るように合図を送ってよこした。わたしは、恥ずかしさに赤面していた。
青年は、ぎこちない仕種で、わたし達の向かいのソファーに腰を下ろした。彼が腰の辺りをまさぐると、ブン、というかすかな音がした。エア・バックルの電源を落としたのだろう。
(なんて美しい顔……)
青年は、髪も長く、姫君かと見まがう、繊細な顔立ちの持ち主だった。
「レプゴウ男爵です」

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