『天使の翼』第6章(4)
ふと見ると、シャルルは窓辺によって、彼の政府高官用携帯端末に向かってしゃべっていた……
わたしは、手近のソファーに――どさっと腰を下ろした。自然と大きなため息が出る――いくらでも眠れそうなほどの疲労に包まれている自分が……いた……
「…………査察庁のミロルダ地方局に――デイテ?デイテ――」
わたしは、はっとしてシャルルの顔を見上げた。
「大丈夫かい?」
「ごめんなさい」
いつの間にか睡魔に捕えられていたようだ。
「今日は、もう休ませてもらった方がいい。男爵へのお目通りが終わったらね。まさか男爵も、今日の今日、すぐに歌をうたえとは言わないだろう……ダイアンのことだけど、査察庁のミロルダ地方局に指示をしたから、心配は要らないよ」
わたしは、こくりと頷いた。
シャルルが、ソファーのわたしの隣に腰を下ろして、半身をわたしのほうに向けてきた。
「疲れたんだね」
彼は、その細い指で、わたしの顔の輪郭をなぞるようにした。
女性にとって、自分の体調のことを気にかけてくれる人――好ましい男性がいることは、ゴージャスな宝石を身に着けているのと同じくらい気持ちのいいこと……わたしは、彼にもっと優しくしてもらいたくて、体をぐっと彼に押しつけた。
一瞬彼の指の動きが止まり、そして、シャルルは、顔をわたしの首筋にうずめるようにしてきた。首の敏感なところにこすれる彼の鼻が、冷たくて少しくすぐったい……
最初、心の中に、安らいだ気持ちがいっぱいになって広がっていき、そして、その心持ちが、だんだんと熱い情熱へと変わりだして――
背後にカタリと音がして、わたし達は、二人してはっと振り返った。

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