『天使の翼』第6章(3)
シャルルは、調子を合わせて――
「うらやましい限りです。経済的な地盤がしっかりしていれば、その上に美しい文化の花が咲かせられるかも知れない。吟遊詩人の僕らも、微力ながらお手伝いしますよ」
「ハハハ、わたくしは、常々自重せねば、と思っているのです。歴史を繙けば、どんな若々しい市民的な文化も、富の蓄積と歩調を合わせるようにして、貴族化し、奢侈を求めるようになる。それは、文化の爛熟であると同時に、斬新さの欠如、過去の焼き直し、そして、退廃へと直結しているのです。……これはこれは、わたくしとしたことが、やくたいもないことを。大変な目に遭われた大切な客人に、失礼をいたしました。ささ、こちらへどうぞ」
わたしとシャルルは、マリピエーロ宮内長官の後について、優に人の背丈の二倍はある巨大なガラス扉から、宮殿の内部へと足を踏み入れた。
そこは、部屋の一面が、全面天井まで届くガラスでできた、屋外にいるかのように明るくて、かなり大きな――わたしのコンドミニアムが三つか四つはいるくらいの――広間だった。
「しばらくお待ちください」
宮内長官は、首都警察の指揮官を従えて、すぐに奥の扉から退出した。おそらく、スペース・パイレーツ――と彼らが思っているものへの対応が話し合われるのであろう……レプゴウ男爵家の警備力はどれ程のものなのだろう、どんな悪辣な手も使いかねない有力者の裏の手兵を防ぎきれるのだろうか……

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