『天使の翼』第6章(2)

 「宮内長官のマリピエーロです」
 老人は、深々と一礼すると、わたしとシャルルの脇を通って、テラスの手すり際まで歩みを進めた。
 「奢侈を求める最近の風潮が、この星に富をもたらしているのです」
 わたしは、シャルルと顔を見合わせた。
 「赤黒い岩、それも美しいマーブル模様の入ったものは、1標準キロ当たり、1000ユナイトもの高値で競られています」
 「この星での卸値がその価格では、末端の市場価格は、一体いくらになるものやら」
 シャルルが嘆息して見せた。老人は、この手の会話が大好きだ。
 「――わたくしの若い頃、あの立派なタワーのオーナー達と言えば、せいぜい良くて、郊外の石材店の親父、といったところでした。それが今では……ハハハハハ。最新流行のスーツに身を包んで、あり余る資金に物を言わせて経営の多角化を進めている……もっとも、彼らの払う採掘権料が、男爵家の国庫を潤しているのですがな――」
 なんと、わたし達を呼ぶのに、インペリアル・キャピタル航宙会社のチャーター便を仕立てること位、何の痛痒も感じることなくできること、ということか……

 「――わが国の採石事業がいつまで需要の続くものか分かりませんが、実は、まだ払い下げていない鉱区がいくつも残っているのです」
 ここで、老人は、両腕を広げて見せた。
 奢侈だ何だと言いながら、件の宮内長官自身がその恩恵の上に胡坐を掛いている張本人のようで、わたしは、ちょっぴりおかしかった。