『天使の翼』第6章(1)

 ……悲しみの最大の成分は、その時の刻みが有限である、ということである。悲しみも、そして、喜びも、それが、無限に続くとすれば、そもそも、そのような感情は生起しない。

(銀河帝国第二王朝期の著名な小説家――悲しみの終わる時はあるのかとの問いに答えて)


 わたし達の乗ったエアカーは、他の二台が上空で警戒にあたる中、宮殿のテラスに直接乗り付けた。
 そこは、宮殿の最上層に付属したテラスで、かすかに冷たさの混じる風に吹かれながら、ミロルダの首都を一望の下にできる。
 ……峨峨たる山々に囲まれた広大な緑の盆地には、山々から流れ下った川の作る扇状地、そして、大小さまざまな湖沼群が形成されていた。
 意外なことに、ダウンタウンと思しき街の中心部には、十を超えるタワー建築が、遥かな連山に競うがごとく空高く伸び上がっている――
 「『赤と黒のタワー』と呼ばれております」
 振り返ると、赤黒い岩の招待状、その三次元映像メッセンジャーに浮かび上がった姿と、着衣までそっくりそのままの、長い白髪の痩身の老人が立っていた。