『天使の翼』第5章(91)

 「厚手の上質紙です。……触った感じが、毛羽立っていて……」
 もはや、間違いはないように思えた。
 吟遊詩人を物色したのが、有力者本人であれ、手下であれ、有力者本人は、普段から白い封書を持ち歩いている訳ではないのだ。
 ……有力者が、滞在する豪華なホテルの一室に、手下を呼びつけ、手下の持参した封書に、高価なペンで、わたしの名を手書きする。――きわめて偏執的な性的欲望を満たすための死刑執行令状……そのおぞましさに、わたしは身震いした。どんな顔をしているのか――必ず見てやる!
 「その白い封書、一通お預かりできないだろうか?」
 シャルルが聞いていた。これは、決定的に重要なことだ。
 はたして、根っからの警察官と思われる指揮官は、躊躇した――
 「何故僕たちが宇宙賊に狙われたのか、僕らなりに考えてみたいのです」
 「いいでしょう。後で部下に届けさせます」
 その時になって、ダイアンを救助したエアカーが、地上に降下してきた。

 シャルルが、わたしに頷いて見せる。
 ドアが開いて、用意された担架の上に、そっとダイアンが横たえられた。
 指揮官が――
 「あなた方のお連れではありませんよね?」
 「いいえ」
 「でも、かわいそうに……」
 わたしは、さりげなくダイアンに近付き、膝を着いて彼女の顔を覗き込むようにした。
 片手でそっと彼女の髪を撫で付け、もう一方の手で、彼女の手の平にそっと紙片を握らせた。
 ダイアンが、息を吹き返して、目を開いた。
 わたしは、彼女に頷いて見せ、すぐにその場を離れた。