『天使の翼』第5章(86)
指揮官らしい一人が――
「デイテ殿、シャルル殿、レプゴウ男爵殿下より、深甚なる謝意のお言葉を――」
「ちょっと待ってくれ――」
シャルルがさえぎった。
「あそこの女性を見てくれ。50標準メートル程上だ……ウインチを使って降下中に、ワイヤーが岩に挟まって切断してしまったらしい。放っておくと落下してしまう!」
わたしはすぐに気付いたが、シャルルは慎重に言葉を選んで、わたし達とダイアンの関係をぼかすのみならず、ダイアンが危機に陥った直接の原因が、首都警察の無謀な運転にあることにも触れていなかった。状況を自分の思いのままにコントロールするシャルルの頭の回転、そして、話術に、わたしは、ちょっぴり怖いものを感じた。
はたして、指揮官は――
「これは、いかん!C小隊、直ちにあの女性を救助せよ!」
間髪おかず、C小隊と呼ばれたエアカーの一隊が、車両に飛び戻って、ダイアンの救出に向かった――今度は慎重にスピードをコントロールして――。これで、まずは、ダイアンの無事が確保できた。

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