2016.10.20 06:53『天使の翼』第7章(6) ――わたし達二人だけの力で、武器もなく、生身の人間二人の力で、大きな、巨大な動きを押しとどめることができるのだろうか? あらゆるものが必要だ―― 何事にも屈せぬ強い心―― 勇気―― そして、知恵、が…… (神様、わたし達に力を与えてください……) わたしは、生まれて初めて、と言って良いくらい真剣に願った。 「旗といえば――」 シャルルが、気を取り直したように、わたしの顔を見詰めた。 「もし、スカ...
2016.10.17 06:15『天使の翼』第7章(5) 最初は、それが何なのか、はっきりと意識できなかった――何でハッとしたのか―― でも、それは、すぐ分かった――緑色の縦横5標準メートルはあろうかという、巨大な旗がはためいている……緑の地に、白点が球状に配された図柄…… わたしとシャルルは、顔を見合わせた。 「サンス大公国――」 シャルルは、頷いた。 サンス大公領は、ハロの球状星団を丸ごと一つ含んでいる、その図柄…… サンス大公国の公館は、これが大...
2016.10.13 09:58『天使の翼』第7章(4) 「僕は、スカルラッティの領星は初めてだけれど、これ程の――」 そう言って、シャルルは、窓外の街並の方へ腕を振って見せた。 わたし達――シャンタルとチャールズ――は、ロボット・エア・タクシーで市街を周回していた。前にも言ったけれど、わたしは、初めての街に降り立つと、まず、ぐるっと一周して、その街の印象をつかむことにしている……。もちろん、この街は大きすぎて『一周』は無理なので、シャルルと相談して、...
2016.10.10 02:47『天使の翼』第7章(3) そして、それは、アクィレイアの第三の特徴そのものだ――アクィレイアは、宗教都市なのである―― 地球型の――つまり、人類の生息可能な、植民星化された――惑星系を五つも含んだスカルラッティ公爵領は、その歴史といい、物理的な規模といい、銀河帝国における屈指の先進星域だ。技術力・工業力の集積は圧倒的で――ちなみに、わたしの愛するエア・バイク・メーカーABC社の本社はアクィレイアにある――、この地にだけは...
2016.10.06 01:23『天使の翼』第7章(2) 第一に、都市部が極めて広い―― 宇宙から見ると、惑星のその部分は、見た目には、ほとんど大きめの島大陸位はある……今は早朝だが、惑星が自転して夜の側に入れば、人工の明かりで銀色に輝くことだろう…… アクィレイアに較べれば、銀河帝国の首府アケルナルなど、ちょっと大きめの村、って所だ――もちろん、テラ=アケルナルにコンドミニアムを所有する者として一言言わせてもらうなら、テラ=アケルナルは、銀河帝国第二...
2016.10.01 03:46『天使の翼』第7章(1) 月の偉大さを忘れるなかれ。 ――太陽の力だけでは、潮の満ち引きは生じない。 (銀河帝国第一王朝期の詩人) 今や、わたしにとって、『旅』という言葉は、『探索』という言葉とシノニムだった。 旅をするという事は、すなわち、積年の謎を解き明かすという事であり、今のところは、わたしの個人的な問題に係わることが、吟遊詩人としての日常の活動を通してサンス大公...
2016.09.29 02:25『天使の翼』第6章(35) 突然、それはやってきた―― 白夜のような薄明かりの中、希望だけは失わずに 寒々と生きてきた僕の心の中に 突然、明るくて温かい陽射しが差し込んだのだ 彼女の笑顔という名の、きらきらとまばゆい陽射しが―― 今まで背けられていた彼女の瞳が 今、真っ直ぐ僕のことを見詰めている 今まで冷たく感情の灯の消えていた瞳に 今、優しく僕を包み込むような光が揺らめいている 今まで硬く閉ざされていた口許に 今...
2016.09.27 23:38『天使の翼』第6章(34) 照明の落とされた大広間は、シンと静まり返っている。 わたしとシャルルは、照度を抑えたスポット・ライトの、光の柱の中に浮かび上がった。きらきらと舞う埃や塵が、まるで特殊効果のようだ。 ……そのまま時が流れるかに思えた時、シャルルのギターの音が、囁くように静寂を破った。 完全に抑制の効いた音、選び抜かれた音色……それでいて、決して人工的な硬さはなく、人の呼吸のように、微かにかすれている…… 長いフレ...
2016.09.26 23:21『天使の翼』第6章(33) 「殿下」 そこへ、マリピエーロ宮内長官が、つと歩み寄った。 「どうやら準備が整ったようです。お二人は、いったん楽屋に引き上げられて、改めて舞台に登場願います」 ちらりと舞台の方を見ると、今は緞帳の下りたそれは、典型的な宮廷劇場――一段高くなり、花道とエレベーターを備えている…… わたしは、とっさの判断で、シャルルと二人エレベーターで舞台中央に登場するのが効果的と見た。――思わせぶりに佇立するわた...
2016.09.26 01:22『天使の翼』第6章(32) 今回の海図には、わたしもちょっとだけ貢献した―― 「だったら名前はどう変える?」 そういうのは苦手らしく、シャルルは肩をすくめた。 こういうことは、即興で決めるに限る―― シャンタルとチャールズ。 それが、わたし達のアクィレイアでの名前だ。7時丁度に大広間に出向くと、久しぶりに招待した吟遊詩人の歌を聞こうと、すでに大勢の宮廷人、地元民らが集まっていた――こういう熱心な歓迎は、わたし達吟遊詩人の魂...
2016.09.22 02:03『天使の翼』第6章(31) 「第二に、出発は、男爵にも分からないよう、今夜のうちに出港する」 ……確かにそれが良いのだろうけれど―― 「でも、それだと、男爵が心配しないかしら――わたし達が悪の手下どもに攫われたんだと」 「うん。でも、脱出を成功させるには、味方をも欺かなくてはならない――これは、譲れないんだ」 「……」 「では、こうしよう。今夜の宴席で、僕は、目顔で男爵に頷いて見せることにする――男爵は、聡明な人だ。その時...
2016.09.21 15:37『天使の翼』第6章(30) 「デイテ」 「……」 「ここは、やはり、一番正統的な方法で行くのが良さそうだ」 「『一番正統的な方法』?」 「ごめん、デイテ。いろいろ考えながら話していると、表現が回りくどくなってしまうことがあるんだ。――つまり、正攻法ってことだよ」 わたしは、思わず笑っていた。彼の説明が分かりやすかった、と同時に、依然として、『正攻法』とは何なのか、分からなかったからだ。 シャルルは咳払いして―― 「悪の手下...