エピメニデスのパラドックス

『ハッシュタグ狂詩曲(#Rhapsody)』第3話
 テーマ:ウソつくの上手? 下手?


 わたしは、どちらかと言えば嘘を吐くのが下手だ。

 

 ところで、『エピメニデスのパラドックス』というのがある。曰く――
 

 クレタ出身の哲学者エピメニデスが、「クレタ人はみな嘘吐きである」と言った。
 

 前後の文脈(ゼウスの不死性に関する議論)を無視して、この文言だけを見るなら、確かにおかしいと言える。クレタ出身のエピメニデスも嘘吐きということになり、そのエピメニデスの発言が嘘であるなら、クレタ人は嘘吐きではなくなり、嘘吐きでないエピメニデスが……と永遠に循環する。
 

 それでは、次の文章はどうだろう?
 

 人間は、皆嘘吐きだ。
 

 すぐに気付かれたと思うけど、この場合は、「人間は、本当のことを言うこともある」という暗黙の了解があって、この文章に関しては本当のことを言っているので、パラドックスではない。

 

 結局、嘘を吐かない人なんていない。
 極論すれば、問題は、その嘘が悪質なものであるかどうかだけだ。
 不思議なことに、悪質な嘘を吐く人ほど、嘘を吐くのが下手だと思わない?

 悪質な嘘を吐く人、吐いていいと思っている人は、そもそも人間的な感受性に問題があって、それ故に、うまく嘘を吐けない……簡単に騙せると高を括っている。いかにも悪人面をしてるから、「あっ、嘘だ!」とすぐ分かる……


 本当に嘘のうまい人というのは、普段から皆に信用されているような人だ。
自分は嘘を吐くのが下手、という顔をして、さりげなく嘘を吐かれると……防ぎようなし。

 でも、わたしの個人的な見解を言うなら、「人間はみな嘘を吐くのが上手い」……「自分自身に対して」!
 もし、自分で自分を欺くことができなくて、物事を常に100%真剣に受け止めていたら、たちまち鬱状態になってしまうだろう。
 人間は、誰しも、かなり切羽詰まるまで、色んなこと、仕事上のこととか、自分の健康のこととか、自分の経済状態とか、「大丈夫、大丈夫」と自分に嘘ついてる。本当は、あまり大丈夫とは言えないのに……でも、この自己欺瞞のおかげで、人間は心の平静を保っていられる。

 さて、わたしは、冒頭で、「嘘を吐くのは下手」と宣言してる……これって本当だと思う?パラドックスを感じたあなた、あなたは、鋭い直感の持ち主よ!

『天使の翼』作者:有川慶子




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