『天使の翼』第5章(24)

 錐揉み状態になりかかった船は、航宙士の技量で、何とか、もとの不安定だが、すぐに墜落するということはない(?)飛行状態に回復した――
 船窓の外を、黒々とした煙を吐き出しながら、黒い船が、追い越して行った。黒い煙の中では火が噴いている。
 わたしは、すぐに気付いたが、黒い船の降下角度は、かなり浅く、彼らが仮に不時着に成功したとしても、その時には、わたし達から相当遠くに離れているはずだ……
 いったい何が起きたのだろう?
 わたしは、シャルルと顔を見合わせた。
 シャルルが肩をすくめようとしたその時、シャルルの背後の船窓に、ぬっと宇宙船の鼻先が現れ、銀色の機体に、朱色の光を煌めかせた……いつの間にか、窓の外のミロルダの大地は、黄昏色に染まっている……
 シャルル、ダイアン、そしてわたしの三人は、わたし達の船に併走するそのスマートな機体に視線が釘付けになった――船体に、船名も紋章も記されておらず、配給庁、査察庁、レプゴウ男爵の武装警察、そのいずれとも思えない……謎の船……ゴージャスだけど旧式のクルーザー――

 !――
 わたしは、心の中で叫んでいた。どこかで見た船……そうだ!アケルナルのリングで、わたし達の前を順番待ちしていた船!
 何故、あの船がここに……
 テナー大佐だ!
 ……「あなたが意図しようとしまいと、私達は、決してあなたを見失いません。……あくまで自分の身は自分で守ってください。私達は、最後の最後の手段です」
 わたしは、確信した。テナー大佐は、ずっとわたしの身近にいて、わたしの周囲に目を光らせてくれていた――そして、絶体絶命の今という瞬間、最適かつ最小限の行動を起こしてくれたのだ……それにしても、大佐らは、こういう事態を見越して、先回りしてミロルダに乗り込んでいたのか?――何と的確な戦術……後をつけていたら、何も手は打てなかっただろう……
 まるでわたしの心を読んだかのように、白銀のクルーザーは、翼をひらめかせてわたし達の船から離れていった――朱色の空に優雅な軌跡を描いて……