『天使の翼』第5章(18)

 じりじりするような時が流れて、ようやく、わたし達のクルーザーの通常航法用エンジンが火を噴いた――良かった!数多くの船に乗ってきたわたしには、それが強力なエンジン特有の音と振動にあふれていることが分かった。わたし達のクルーザーは、外見だけでなく、性能それ自体もすぐれていたのだ……
 わたし達の船は、まるでブラック・ホールから必死に離脱しようともがくように、エンジンを吹かしまくって、激しく船体を振動させた。
 次の瞬間、わたし達三人は、船尾方向に激しく投げ出され、クルーザーは、糸が切れた凧のように突進した――危うく検査所を避け、惑星ミロルダの方向に飛翔する。
 船尾方向を見ると、黒いヨットは、遅れながらもぴたりと追ってくる……
 「君!……」
 シャルルが、スペース・アテンダントに話し掛けていた。
 「ダイアンと呼んでください」
 「ダイアン、気にもしていなかったけど、この船の航宙士は二人だろうね?」

 「もちろんです」
 「よし。もうそのうちの一人がやってくれたと思うが、すぐに、レプゴウ男爵の行政庁と無線連絡して、当方の位置を伝え、男爵家の武装警察を派遣してもらうんだ」
 「分かりました」
 ダイアンは、前に走った。
 「デイテ、聖薬検査所から既にアケルナルの本庁に通報が入ったはずだ。でも、この辺境だ……配給庁軍にしろ査察庁軍にしろ、ここに駆け付ける頃には全て終わっているだろう……正直言って、男爵家の私兵も当てにはならない……」
 わたしは、ごくりとつばを飲み込んだ。
 「あ、あなたが直接指揮を執れば――」
 「いや、それはやめた方がいい。押し問答してる時間もないし、一つの船に船頭は一人でいい。彼らだって必死だ。何も言わなくても、やってくれるさ」
 惑星ミロルダはみるみる眼前に迫り、わたし達の船は、周回軌道に乗った……無論、黒いヨットもだ。
 窓外に広がるミロルダの地表面は、少なくとも陸地と海の比率が50:50――とにかく海が少ない。そして、陸地はほとんど赤黒い色で覆われている。この星の植生がどうなっているにせよ、酸素の生産は、葉緑素以外のもの、あるいは海中で行なわれているに違いない……