『天使の翼』第5章(17)

 黒光りのする大型のスペース・ヨット――ここからでは、紋章の類は見えない――が、ほとんど銀河標準10メートルの至近に迫って、船首の砲塔から、ぎらぎらとまぶしい牽引ビームを放射している。これは、スペース・オペラなどに縁のない、どんな想像力に乏しい人にも明白な状況だ――その黒い船は、わたし達の船を捕捉して、無理やり非常脱出口にドッキングし、この船を乗っ取ろうとしている。
 スペース・ジャック、いや宇宙海賊(スペース・パイレーツ)だ!
 話には聞いたこともあるが、まさか、直接叙任貴族の支配する帝国領の、しかもワープ・ステーションでこんなことが起きるなんて!
 ……そして、わたしとシャルルは、ほとんど同時に、ある事実に気付いて顔を見合わせた。
 ワープ・ステーション周辺の空域は、第一特種警戒空域で、そんな警戒厳重な空域で件の黒い船が餌食を待ち構えていたとは思えない。
 そして、わたし達の船は、着三次元ステーションで三次元化したばかり、後続の船が、リングを通ってくることはできない……
 と言う事は、そう、この黒光りする不気味な大型ヨットは、自載ドライブ・ワープ・エンジンを備えている……

 ……よもや、わたしとシャルルの使命を知る敵では?……
 「宇宙賊だ!皆殺しになるぞ!航宙士に言ってすぐに高速離脱させるんだ!」
 シャルルが叫んでいた。身分を明かさず、この船を指揮、いや、思う方向に動かすには、これしかない。
 スペース・アテンダントは、それと分かる蒼白な顔で、乗務員室の扉までなりふり構わず這いずると、中に向かって同じことを絶叫した。
 そうこうするうちにも、またガクンと大きく衝撃が走って、今にも、黒い船の非常ドッキング用口吻が伸びて来て、わたし達の船にへばりつきそうな気配だ。