『天使の翼』第5章(12)
ふと通路の反対側に坐るシャルルを見やると、彼はちょうど女性乗務員(スペース・アテンダント)から飲み物のサービスを受けていた……
その瞬間、わたしの心に細波が走った。
何気ない光景だが、日焼けした肌の美しいきりっとしたその女性は、あきらかにシャルルの魅力を意識して、顔がほんのり上気して、何を話しているのか、声も固くなっている……シャルルにグラスを渡す時の指づかいがひどく優しげで、触れなんばかりに見えた……
何気ないことだけど、シャルルが女性と二人のところを見るのは、初めてだと気付いた……美しい女性と接する時のシャルルの顔の表情……シャルルだって嬉しくないはずはない。顔を上げ、女性に答えるシャルルの面に、はにかんだような表情がよぎった……
わたしの心は、まるでパニックを起こしたように、胸騒ぎでいっぱいになった……シャルルって、意外と、ああいうアウトドア派の格好いい女性がタイプなのかも……わたしとはちょっと違う……シャルルなら、どんな女性が相手であってもおかしくない……女性の方が放っておかない……
――わたしったら、どうしたのかしら――どう考えても深読みのしすぎだ……
件の女性は、シャルルへのサービスを終えて、わたしの方へ向かってくる……わたしは、すっかりどぎまぎしてしまったが、女性は、わたしのことをシャルルの姉と信じきっているのか、何の屈託もなく、コーヒーを置いて、乗務員室へと消えていった……
わたしは、気持ちを切り替えて、しようとしていた質問を発した。
「君は、なぜ吟遊詩人になったの?」
それが、シャルルの答えだった。
――わたしは、吟遊詩人の家庭で育った。両親も、兄も、そして祖母も吟遊詩人……自然と歌が好きになり、何の迷いもなく吟遊詩人となった……自分らしさ、自分の個性を周囲の人に見てもらいたい……

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