『天使の翼』第5章(11)

 わたしは、歌い終え、そして、シャルルも、ちょっと長めの後奏
をしめくくって、ギターを下ろした。
 ――歌ったのは、わたしの持ち歌の一つで、人に言ったことはないけれど、自分ではそのものずばり『失恋男』というタイトルを付けている。昨夜POPSで歌った『本当の気持ち』の後日談のような歌だ……今まで、自分のギターで、自分の伴奏で歌ってきたけれど、今日のは、いつもと全く違っていた……シャルルは、歌詞の内容を、まるでその先のことは分かっているとでも言いたげに、完璧に理解して演奏していた。その演奏によどみはなく、ギターの腕前も相当なものであることが分かった。改めて彼のギターを見ると、傷だらけで、長い年月使い込まれてきたことが分かるのだ……彼の心の入った演奏は、彼自身恋の経験――数ではなく中身が問題だ――で心を傷付けたことがあるのを物語っている――
 いつの間にかわたし達の周囲を取り巻いていた人々の間から、最初ためらいがちに、そして周囲の反応に自信を得たように大きく拍手が沸き起こった。人は、マイナーで個性的なものを評価するのに、少しばかり勇気を要する。シャルルのギターボックスに、次々とユナイト硬貨が投げ込まれる。
 わたし達のまん前に陣取っていた奇抜なファッションのアベックは、驚いたことに、100ユナイト紙幣を投げてよこした。ウインクのおまけまでして去って行く二人の後ろ姿に、アベックでいられることの幸せを読み取ったのは、わたしの今の心境を表しているのだろうか?

 いずれにしても、ここに、デイテとシャルルという名のユニットが誕生した!
 わたし達のチャーター便は、シルバーの機体の燦然と輝く、ゴージャスなスペース・クルーザーだった。――そんなこともないだろうが、レプゴウ男爵は、相場を知らずに高く払い過ぎたのかしら……
 すでに、聖薬配給所での聖薬の摂取を終え、ワープ・ステーションのリングも通過して、ワープ航法に移っている。
 わたしは、聖薬の副作用でシャルルが寝入ってしまう前に、聞きたいことがあった――正確に言うと、一番聞きたいことから、二番目か三番目位の質問だ……
 ――シャルルは、何故査察官となる道を選んだのか?
 アケルナル帝国大の哲学科を首席で卒業した彼には、他にいくらも選択肢があったはずだ。とても知りたいし、比較的聞きやすい質問でもある……