『天使の翼』第4章(19)

 本当のことを言うと、わたしは、女性と寝たことがある。
 自分から求めることこそないが、わたしのようなカッコいい女性(?)は、女性からも憧れの視線で見られている……わたしにも、人並みに好奇心と欲望があるから、最後までいってしまったことがないとは言わない……
 どうも、この話題は苦手だ。
 バージニアは、一晩わたしの部屋で明かしたが、二人の間には何もなかった。
 久しぶりに心の扉を開いて安心したのか、バージニアはひどく甘えん坊で、わたしに一晩中添い寝してくれとせがんだが、それだけだ……わたしは、彼女からお姉さんと呼ばれる特権を享受することとなった。
 そして、翌朝、あわただしい別れの中で、わたしとバージニアは、GTCギャラクシー・テレコムの十五桁の携帯端末番号を交換した。これで、わたしとバージニアは、いつどこででも、GTCのワーム・ホール回線を通して擬似同時的に会話を交わすことができる。
 ……その携帯端末に着信があったのは、バージニアを送り出して、ホテル差し入れの朝食をとっているときのことだった。
 「トーマスです」
 わたしは、シャルルと気付くのに少々手間取った。
 「――もしもし」

 「ごめんなさい、デイテです」
 「いいんです。起こしちゃったかな」
 数日振りに聞くシャルルの声は、ひどく若々しく、そして……耳に心地よかった。はきはきとして明るい。それにしても、重大な使命を担った二人の会話の出だしは、あまりにも自然で日常的だった―― 
 「わたし、今、サザン・アイランドのPOPSというホテルで朝食をとっているの。昨夜、このホテルで飛び入りで歌ったのよ」
 「さすがだ……僕の方は、つい今しがた、ポート・シルキーズ宇宙港に着いたところで、これから先当面の計画は、すべて君に任してしまっていいのかな?」
 わたしは、シャルルの単刀直入な物言いに好感を持った。何でも自分で取り仕切ろうとしたり、ぐちゃぐちゃ意見を差しはさもうとする男とは大違いだ。
 わたしは、これまでの経緯を簡単にシャルルに説明し、今日これからの計画は、とりあえずわたしがPOPSを出た後、もう一度わたしの方から携帯端末に連絡を入れることにした。
 「……二時間くらい待ってちょうだい」
 「いいですよ、ぶらついてます」
 わたしは、銀河帝国第二の位階をもつ男の台詞が、ちょっぴりおかしかった。