『天使の翼』第8章(60)

 まぶたを通して、部屋の明かりが落とされたのが分かる。
 シャッターが上がっていく音がする。微かにきしむ音を立てながら……
 シャルルが、『ほっ』と息を呑んで、声にならない叫びを上げた。
 思わず、わたしは、目を開いた。
 シャッターの向こうは、一面のガラスで、その向こうの空間は、暗くてよく見えないながらも、キャビネットどころの話ではなく競技会場ほどもの広さがありそうだった。はめ込みのガラスの左右から円弧を描いて岩肌が伸びていく様子から、楕円状の空間と推測される……これだけ広い空間は、わたし達の入ってきた小聖堂の建物には収まるはずもなく、うすうす思っていた通り、ここは、聖堂の地下深くに隠された施設に違いない……
 徐々にその空間を照らす照明の照度が上がってきた。
 目を凝らすうちに、空間全体にびっしりとガラスの円柱が林立しているのが分かってきた。
 ……それは、人の背丈の二倍ほどの高さがあり、薄暗い中ちらちらと光を反射する様は、さながらヒカリゴケのようである……
 ……
 !ああ、なんて事!
 ガラスの円柱の中に、裸体の女性が浮かんでいる!
 ――各々に、永遠のポーズをとって……

 ――その数、何十体……何百体……
 ……今まで、よくもこの驚愕の犯罪が暴かれることもなく――
 スカルラッティが、わたし達二人の反応を楽しむように、さらにコンソールの操作を続けた。
 奥の方にあった一本の円柱が、機械仕掛けでするすると動き出した。見る見るわたし達の眼前の窓ガラスに迫ってくる……
 おぞましくも、わたしは、ついに目の前に来て止まった円柱から目を逸らすことができなかった。
 ――波打つプラチナ・ブロンド……
 カレンに違いない。――実際、円柱の基盤に貼られた真鍮色のプレートに、『ノブゴラードのカレン ×××年』と刻印されていた……