『天使の翼』第8章(53)
「……デイテ……デイテ……」
遠い靄の向こうから、わたしを呼ぶ声がする。
何とかして目を開こうとするのだが、息が詰まるだけで、身動きもままならない……
ためしに指先を動かしてみようとするのだが、脳からの指令が途中で遮断されているような、鈍い感覚が、空しく二の腕に充満した。
意識すればするほど、呼吸が苦しくなり、吸っては吐くだけの、単純な動作ですら、無意識に放置すれば止まってしまうような恐怖にかられて、わたしは、必死で、口をパクパクさせた――もう駄目、限界!酸素が……
と、フッと緊張が途切れて、スーと吸気が肺の奥まで染み通り、わたしは、覚醒した。
「お兄ちゃん!」
わたしは、無意識に声を上げ、その自分の声に驚いて目を開いた……
ほとんど同時に、自分が、手術用の椅子のようなものに拘束されていることに気付く。手首、足首、そして腰が、びくともしないスチールの環で固定されている。――ハッとして視線を下ろしたわたしは、ホッとため息を吐いた。この状況で不幸中の幸いを言っても始まらないが、てっきり自分は裸にされていると思ったのだ。
隣の椅子にシャルルが拘束されており、今しも、睡眠誘導剤に違いない、強制的な眠りから、体を震わせて目覚めようとしていた。あの修道僧……
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