『天使の翼』第8章(52)

 外観がそうであったように、モダンな離宮とは対照的な、相当時代を経た、質素な作りだ……色彩も、飾り気も、ほとんどない……おそらく、ここに元からあった建物ではなく、移築でもされたのだろう……
 わたしとシャルルは、うながされるままに、告解室の手前のベンチに腰を下ろした。
 ……疲れていた。
 「今、飲み物をお持ちしましょう」
 ……考えてみれば、巡礼者用の宿泊施設を引き払ってから、一滴の水も飲んでいなかった。
 わたし達は、修道僧の出してくれたグラス一杯のお茶――のどを潤すには丁度良く冷ましてあった――を、ありがたく頂戴した。
 これで、また、スカルラッティとの対決へ向け、少しは気力の回復・す・る……
 「歌合戦は、残念なことをしましたな」
 ……修道僧の声が、くぐもって、どこか遠くから聞こえてくるような気がした。
 わたしは、返事をするのも億劫で、ただこくりと頷いた。
 シャルルはと見ると、もうまぶたを閉じて、上半身がぐらぐら……と揺れて……わたしの肩に……寄り掛かって……きた……
 「……大丈夫じゃ……大丈夫じゃ……」
 修道僧の顔が眼前に迫って来たと思うや、ぐらりと横倒しに傾き――

 わたしとシャルルは、気を失った。