『天使の翼』第8章(47)
そういえば、大き目の、儀礼用と思しい軍帽を脱いですらいない。
スカルラッティは、束の間無表情で――その顔は、憮然としているようにも、ある種諦念の境地にあるようにも、はたまた、激しい怒りを秘めているようにも見えた――、ようやく言葉を発した時には、何か得体の知れない笑みが張り付いていた……
「デラ殿下、かくも美しき戦士を我が館にお迎えでき、光栄の至りですな」
殿下は、全く取り合わず、ほぼ完全な無表情、といってもよい態度で――
「話は後で――」
そして、彼女の視線が、わたしとシャルルの上に降りてきた。
わたしの思い過ごしかも知れないけれど、わたしに対しても、シャルルに対しても、単なる好奇心以上のものを感じたように、見えた。……シャルルに対しては、ぐっと引き付けられそうになるのを慌てて断ち切ったように、そして、わたしに対しては、前にどこかで会ったことがあるとでも言うように……
当のシャルルは、なんら臆することなく、あの全く悪意というものの感じられない、優しげ、といってもいい表情で――あくまで、やわらかくではあったけれども――デラのことを見詰めていた。
もちろん、わたし達三人の初めての顔合わせは、たまたま、わたしとシャルルがスカルラッティの傍に、まるで重要人物然として立っていたから実現したのに過ぎない。
――スカルラッティは、わたし達を紹介してくれるのかと思いきや、案に相違して、手振りで退出を促してきた。
ただし、わたしに対して軽く頷いたからには、先の約束は守るらしい。
デラ殿下の注意も、すぐに、わたし達の上から逸れていった。
最後に振り返った時、デラ殿下は、にじり寄る大使を、嫌な虫けらでも払いのけるようにして、軽い手の一振りで退けていた。彼女は、一応顔は出したものの、この宴には参加しないつもりらしい……
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