『天使の翼』第8章(28)
わたしの心配をよそに、曲は、『結』の部分を迎えた――
何故、便りがないのだろう?
思う度、無数の可能性が心に浮かぶ
――今の生活に浸りきっていて
単に便りを出しそびれているだけなのか
――急に成長した姿を皆の前に現して
驚かそうというのだろうか
……どちらも、心優しい妹には似つかわしくない……
……だとすれば……
――だとすれば、
何か悪い巡り合わせに捉えられて
便りを出せずにいるのでは……
――それ以上は考えたくない
――恐ろしくて考えられない
シャルルは、俯いて、歌うのを止めた。
(えっ?)
これで終わり?
……そんなはずは……
わたしは、シャルルとアイ・コンタクトを取った……
(……まだ続きがあるのね!)
この曲は、単純な起承転結の曲ではなかったのだ――大げさに言えば、オラトリオだ……不完全な終止は、必然的に次を期待させる。
わたしは、いったんギターの弦を押さえて音を消してから、次の小節へと移った――わたしの予感では、先行きに明るさの見える曲調で……
どうしようもなく湧き上がってくる不安と
なすすべのない無力感
僕の心が息を止めてしまうように思えた
その時――
辺境に美しい歌い手が現れた
と、知らせを聞いた
「彼女の名は?」
……
その名は、
僕の妹と同じだった!
妹と同じ名――
同名の別人ではないのか?
そして、僕は気付いた
――行ってみよう!
その辺境の星に行ってみるのだ
僕は、今再び旅へと出る
――難しい曲だった。
――祭りの雰囲気と必ずしもマッチしている訳ではない。
――あからさまなハッピーエンドにも持って行けない。
そして――
――そして、歌い手として、聞いてくれている人たちに最善を尽くしつつも、スカルラッティに罠を仕掛ける……
……
わたしは、さらに一つのことに気付いた。
聴衆は、この歌の続きを聴きたくならないか?
わたしは、シャルルの歌い終わった後も少し長めにギターを弾き続け、名残を惜しむように曲を閉じた。
静まり返った会場――吹き過ぎてゆく冷たい風の音が聞こえるような……

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