『天使の翼』第8章(14)
「そう。兄が、妹の身に何が起きたか分からずに嘆く……そういうストーリー――スカルラッティは、きっとこの意図せぬ仄めかしに乗ってくるわ」
「……きわめて危険だけど、それは承知の上、スカルラッティの注意を確実に引き付けることができる――興味を持ったスカルラッティと会話するような場面になったら、レプゴウ男爵からもらったリストの中の行方不明の吟遊詩人の名を一人上げてみてもいい」
……さすがに、わたしも、そこまでは考えていなかった――もしそれが図星であった場合、一体どういう展開になるのだろう?
「歌える?」
「大丈夫だよ。即興で歌って見せる――君の事を思い浮かべながら……それに、今聞かせてくれた曲、心に響くようだった――自然と歌詞が出てきそうだよ」
わたしは、最初シャルルの目をじっと見詰め、そして、その手を取った。
「シャルル、一つお願いがあるの。――あなたなら、分かってくれると思う」
「……」
「これから先、わたし達の大切な使命を果たすため、いくつ歌を歌うか分からないけれど、どれも、真剣に、真面目に歌いたい……歌い繋いで、最終的にサンス大公国に入国することが目的だけれど、それはそれとして、吟遊詩人として、一つ一つの歌を大切に歌っていきたいの」
わたしは、分かるでしょ、という風に頷きかけた。
彼は、すぐに頷き返してくれた。
「もちろんだよ。――そうじゃないと、人の心を打つことはできないものね」
わたしは、思わずシャルルの頬にキスしていた。
シャルルの驚いた顔に、すぐに嬉しそうな笑みが浮かんだ。わたしは、そういう、彼の感情表現の豊かなところが大好きだ。……わたしは、ふと、ミロルダの洞窟隊商路で、スカルラッティの悪の手下――男女二人組みに襲われた時のことを思い出した。あの時、いたいけな少女が銃弾に倒れた時、シャルルの浮かべた決死の怒りを……

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