『天使の翼』第8章(9)
わたし達は、自分たちでも気付かないうちに、いつの間にか手を取り合って歩いていた。
ふと見ると、ジェーンが、もうバイクの前に戻って、手にしたパンフレットのようなものに目を落としている。
わたしは、慌ててシャルルの手を振りほどいた。
「ジェーン、滑り込みでエントリーできたわ」
ジェーンは、手元のパンフレットから顔を上げるなり吹き出した。
「あなた達泥だらけよ!」
わたしとシャルルは、改めて自分たち二人の格好を見下ろした。
「参ったな!」
二人とも、ぬかるんだ地面を突進したせいで、体中に泥を撥ね散らかしていた。
三人でひとしきり笑った後、シャルルは――
「ジェーン、改めて礼を言う。僕たちの歌えるイベントを見付けてきてくれるだけでも嬉しかったのに、まさか大司教様の前で歌えることになるなんて……」
ジェーンは、シャルルのあまりの真剣さに、事情が分からず不思議そうな顔をしていたけれど、すぐに赤い顔になって――
「わたしが大司教様の臨席するイベントを見付けてきたのは、お二人にくっついていく口実にするためよ……」
何にしろ、ありがたいこと……しかし、と、わたしは思った――ジェーンをわたし達の事件に巻き込んではいけない、絶対に――
ジェーンは、わたしとシャルルに、その順番で、一部ずつパンフレットを渡してくれた――シャルルからわたしに興味の対象を変えたらしいジェーン、ちょっと前だったらパンフレットを渡す順番は違っていたかも知れないし、ひょっとしたら、それも一部しかくれなかったかも……パンフレットには、その表紙に、白地に赤いふくろうと十字をあしらったアクィレイア大司教の紋章と、デフォルメされていてすぐにはそれと分からなかったが、洞窟と瞑想する聖女と言う図柄のウラール大修道院の紋章が、並べて大きく印刷されていた――印刷といっても、おそらく古風な木版印刷――。見開きのページに、ウラールの村の絵地図が描かれている。それによると、大修道院は、森の木々に遮られてその建物が見えないだけで、村から1標準キロ程の渓谷沿いに、広大な敷地を持っていることが分かる……

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