『天使の翼』第8章(8)

 わたしとシャルルは、息を切らしながら、きょとんとしていた。ほとんど同時に――
 「『どっち』って?」
 初老の修道僧は、村人二人が片付けるに片付けられず手に持ったままの看板を指差した――
 『フリー部門』――
 そして――文字をたどったわたしとシャルルの視線が、一つの単語に釘付けとなった――
 ――『キリヤック俗謡』
 わたし達二人の沈黙の時間は、結構長かったに違いない……わたしは、しげしげとわたし達を見詰める修道僧の顔を見た。
 「『キリヤック俗謡』?」
 「キリヤックとは、このウラール地方の古い雅称なのだよ……俗謡とはいえ、内容的には立派な叙事詩じゃ……」
 「……」
 「ご存じないところを見ると、『フリー部門』にエントリーじゃな」
 修道僧が指をぱちりと鳴らし、村人がカウンターの上に申込用紙を置いてきた。わたし達は、ほとんど上の空で、シャルルとデイテでなく、チャールズとシャンタルと署名したのは、ほとんど奇蹟に近い。
 ――決定的……いや、何があるか分からないが……それにしても……
 慎重に、スカルラッティ本人が真犯人であるかどうかは留保するにしても、わたし達は、悪の源に近付いた、とても近くに……