『天使の翼』第8章(6)

 アクィレイアの太陽が、この星にとっての西の地平線にかかろうとする頃、わたし達は、エアバイクをウラールの村の広場に乗り入れた。
 村は、他に何もない、森林地帯の真っ只中にあった。
 1標準時間以上前に高速誘導路を降り、地上道に沿って滑空してきたので、この森の周辺に、どのように建物が散らばっているのか全く分からない。――大修道院そのものも、まだ見ていない……
 わたし達は、年次感謝祭でにぎわう広場の一角に、どうにか駐車スペースを見付け、バイクを降りて腰を伸ばした。
 広場には、なにやら得体の知れないものを煮込む湯煙を含めて、立錐の余地なく屋台が立ち並び、宇宙港並みに多種多様な人種がひしめいていた……果たしてこのうちのどれだけが歌合戦にエントリーしていることやら……わたしの懸念通り、すぐそれと分かる知人こそいなかったものの、広場のこの一角だけで十指に余る吟遊詩人の姿が認められた……
 そんなことに気を取られているうちに、いつの間にか腕を取られていたわたしは、シャルルだとばかり思って振り返ると、ジェーンが微かに潤んだような瞳で――わたしには確かにそう見えた――わたしの目を見詰め返してきた。わたしとジェーンは、ほとんど背の高さが同じだ。
 (やれやれ)
 わたしは、この新しいわたしの崇拝者に、幾分冷たい口調で言い放った。
 「わたしとチャールズは、歌合戦にエントリーしてくるわ。あなたは、どこでもいいから宿を見付けてきて」
 この人出で宿を見付けるのは至難の業だ――それは、わたしのような旅を生業とする者でなくともすぐ分かる――。待てよ!ジェーンは祭りのスタッフだから――

 「分かったわ。わたし、村に着いたらすぐに事務局に顔を出すように言われているから、泊まるところの心配は大丈夫だと思う」
 ――わたし達は、1標準時間後に、バイクの前で落ち合うことを約束して別れた。