『天使の翼』第8章(5)

 わたしは、わたしが覚悟を決めたこと――シャルルの率直な一言を恨めしくなど思っていないことを、何とかしてシャルルに伝えたかった。今すぐに――
 わたしは、生理的な限界までノン・ストップで走るという初志を覆して、眼前に迫ってきたASA(エア・サービス・エリア)に飛び込んだ。このASA、普通のASA――多層階のタワー状の建造物――と違って、鋼鉄都市の屋上部分をそのまま活用している。
 手近な空きに着地するなりバイクを飛び降り、メットを投げ捨てながら振り返って、驚いているシャルルのメットを剥ぎ取った。
 混乱して、わたしに往復ビンタでもされると思ったか、はたまた、わたしがいつの間にかスカルラッティに化けられていたとでも思ったか、身を引いて目を見張っているシャルルを、わたしはぎゅっと抱きしめて、唇を押し付けた。……思い切り濃厚なキスをしてから、優しく身を引き離す。
 「まだ先が長いわ。今のうちに行っといて」
 わたしは、ようやくわたし達の駐車スペースを見付けて接近してくるジェーンを尻目に、洗面所へと足早に歩み去った。
 用を足し、顔に冷たい水を振りかけながら、わたしは、意識して先のことを考えようとした――スカルラッティに個人的な招待を受けた後の展開……
 わたしは、すぐに気付いた――そこから先はいくら考えても始まらない――少なくとも今の時点では……おぞましい展開になることだけは予測できたけど……