『天使の翼』第8章(4)
「わたし達、計画通りに事が進めば、スカルラッティに『直接』招待されることになるのね」
「そうだね――白い封書の招待状は使われないだろう」
シャルルは、鋭く、わたしの考えていた通りに、要点をついてきた。――スカルラッティのお膝元、目の前で歌うのだから、キリヤック伯爵の出番はありそうにない――
「デイテ、白い封書が僕たちに届けられれば、これはもう決定的な証拠という他ない。その意味では少し残念かもしれないけれど、今大切なことは、さらにダメ押しの証拠を積み重ねることよりも、スカルラッティの懐に飛び込むことだ……僕ら自身をおとりにして……スカルラッティの吟遊詩人に対する異常な欲望そのものを白日の下にさらすこと……言いにくいけれど、連続殺人犯の習性である記念品の蒐集――その記念品の中に、君のご両親の存在が隠されてないか確認することなんだよ」
……今まで触れるのを避けてきたこと、核心に触れたシャルルの一言が、重くわたしの心に響いた。わたしの体に巻きつくシャルルの腕に力がこもるのが分かった。わたしには、シャルルがその全身で「ごめんね」と言っているのが感じられた……
わたしの心に、昨夜シャルルの見せた激しい一面――その言葉がこだました――
……相手の欲望を逆手にとって、相手をいつもとは違うパターンに誘い込み、そこに陥穽を仕掛ける……公爵の邪悪な欲望は、それ自体彼の弱点であり、それを利用して破滅へと導くのだ――
両親の生死に関しては、わたし自身考えることを避けてきた――
その問題が意識のすぐ下にあって顔を出そうとしているのを感じながら、意識の表層に取り出して考えることを避けてきたのだ……両親はまだ生きていて、いつか再会できる、わたしが助け出すのだと……
しかし、今、スカルラッティとの対決を目前に控えた状況で、わたしは、はっきりと現状認識する必要に迫られていた――対決の場で取り乱したり、情緒不安定になる危険は冒せない……
シャルルは、そのことをさりげなく、会話の流れの中で教えてくれたのだ。――きっと、どこかの段階で話そうと思っていたのだと思う。つらいことだけれど、触れずにいることは、本当の愛情とは言えない。

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