『天使の翼』第8章(3)
……わたしは、ウラールに着いてからのことを頭の中で――既に同じことを何度も繰り返していたけれど――シュミレーションしてみた。咆哮するバイクは、わたしにとって、いろいろな意味でイメージの揺籃――シュミレーターの装置と化す……
……修道院に出向いて、歌合せにエントリーする……わたしのようなプロでも参加できるのか、ふと気になる……それと、顔見知りの吟遊詩人、歌仲間と鉢合わせしたらどうしよう……偽名を使っていることが……
……宿を取り、明日歌う歌のテーマを練る……待って!歌うのはシャルルだった……わたしは、ギターの担当……大丈夫かしら。まだ何も形を成していない。シャルルは何か考えているのだろうか?……何としても勝ち抜いて、大司教……スカルラッティの目に留まらなくてはならないのよ……テーマは何にすれば?……
……わたし達は、どんどん勝ち抜いて、ついにスカルラッティの前で歌うことに……スカルラッティは、髪を短くしたわたしに気付くかしら?……気付かれてしまいそうな……わたしは、メイクを濃くすることにする――ギターを弾くお人形……
わたし達……いえ、わたしに興味を抱いたスカルラッティが、わたし……わたし達を個人的に招待する――
ここまで考えてきたわたしは、はたと一つのことに気付いた。
「シャルル」
「どうしたんだい?」
メットのマイクを通しても、わたしの声色は伝わったのだろう、シャルルがすぐに反応してきた。

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