『天使の翼』第8章(2)

 と、わたし達の大型バイクのすぐ横に、いつの間にかスピードを落としたジェーンが来ていた――わたしの視線を捉えると、誘導路の先を指差して、早く早くと促してきた。
 わたし達は、出発してすでに2標準時間経つというのに、いまだに大アクィレイア中央市の市街を走っていた。ありとあらゆる反磁場発生車両、エアバイク・エアカー・エアバス・エアトラック、そしてエアトレインまでもがめまぐるしく行き交う高速誘導路は、優に幅員が200標準メートルはあったが、両側に500標準メートルはあろうかという絶壁のような複合建築が聳えているので、比較すると小さなクリークのようなものでしかなかった。――まさに、驚異の鋼鉄都市だ。今日中にウラール大修道院のある村へ辿り着いて、宿を取らなくてはいけないのに……
 わたしは、まかせて、という風にメットを傾げて見せて、ジェーンに返事をする暇も与えず、一気にエアバイクを加速させた。――次の瞬間には、ジェーンと彼女のまたがる中型バイクは、遥か後方の一点と化していた。
 アケルナルの、わたしの秘密の隠れ家をベースに愛車を乗り回す時も、自動操縦装置というものを、わたしは、一切使わない主義だ――そのわたしが、特に考えるでもなく、ためらわずに赤いスイッチを入れていた……これから先のことを考えると、何よりも体力を温存しておかなくては……疲労は思考を鈍らせ、一つの判断の誤りが、致命的な結果につながりかねない。惑星の4分の1周程を走るとなれば、なおさらだ――単車のツーリングがいかに体力を消耗するか、わたしは、経験から知っていた。