最初の微かな揺らぎが、増幅して大きな渦となる。歴史は、巨大な、全てを飲み込む加速器だ……。
混乱を断ち切るには、強く揺るぎない意志と、不屈の行動力が必要だ。つまり、一言で言うと、目的の為には、手段を選ばない覚悟を持つこと……
(古代地球のある革命家)
空気を切り裂くエアバイクの咆哮――
このスピードだと、メットをしていても風切音は圧倒的で、体全体を包み込んでくる。
わたしは、トレードマークの黒のコートをはためかせ、背中にしがみついてくるシャルルを全身に感じていた。
彼は、わたしのちょうど胸の下辺りに腕を巻きつけ、わたしの背中に密着していた……まるで甘えん坊のようだけど、正直言って怖いはずだ、このスピードは……
わたし達三人は、北行きの高速誘導路をウラールへ向け、低空で飛ぶミサイルのように疾駆していた。
前を行くジェーンはなかなかの腕前で、時々点のように小さく先へ行ってしまう……
普段のわたしだったら、負けじと追い越しをかけていたかも知れないけど、今は、かえってその方がいいかも……何故って、ジェーンは、先刻の服装のままだから、後姿が、ちょっぴりコケティッシュに過ぎる――
「シャルル、大丈夫?」
わたしは、メットに内蔵されたマイクに向かってしゃべった――
ちなみにこのマイクは、メットの持つ他の機能――風景のバーチャル映像化やメーター表示機能など――同様に、バイク本体とだけ同調しており、他のバイクの運転者とやり取りができる訳ではない――
「……うん」
少し間を置いてから、シャルルのくぐもった声が聞こえた。……それ以上しゃべる気はないらしい。
「しっかりつかまっててよ!」
わたしは、突然、シャルルを高速で――ということは、地上50標準メートルの高度で疾駆しているバイクから振り落としてしまう恐怖にかられた。
「分かってるよ」
今度のシャルルの返事は、はっきりとすぐに返ってきて、わたしは、少し安心した。
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