『天使の翼』第7章(38)
シャルルは、万全を期して、一連のコマンドを打ち込んだ――男爵から借りた白い封書のデジタル画像と、消耗備品課のリスト上の白い封書を照合するのである。
程なく結果が出た――90・3%合致……これは、消耗備品課の画像がさほど高画質でなかったことを考えれば、とても高い数値だった。
わたしとシャルルは、しばし押し黙っていた。
……わたしの両親を誘い出すのに使われたと思われる白い封書……わたしをPOPSから誘い出す目的だった白い封書……わたし達を襲った船に備えられていた白い封書……レプゴウ男爵家と吟遊詩人の招待合戦を演じた謎の人物の白い封書……そして、スカルラッティの昔の公用封書――厳密なことを言えばきりがないが、すべてが一本の糸でつながった……
「デイテ――」
最初に沈黙を破ったのは、シャルルだった。
「――アケルナルの本庁から出張した文書鑑定官が、POPSから回収した封書に入っていた用箋の分析を行っている。今の段階では――」
「『今の段階』?」
わたしは、歯痒くなって聞き返した。
「今の段階では、犯罪に係わっているのが、スカルラッティの周辺、きわめて近しい人物だとしか絞れない」
「……」
「スカルラッティ本人が犯人だとする決め手に欠けている……指紋などの生物学的証拠も含めた、徹底的な分析が必要だ。最後の土壇場になって、生贄の羊を差し出されてはたまらないからね」
きわめてありそうなこと――わたしは、頷いた。

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