『天使の翼』第7章(34)
どうやって立ち向かっていけば良いのか、わたしは、ここアクィレイアで、敵の本拠地で、現実と言う名の越えがたい壁に直面していた。
そんなわたしの心の傾きを敏感に察知したシャルルが、励ますように声をかけてきた――シャルルらしく理知的な言葉で――
「第一に、確実な証拠を摑むこと――相手がどのような存在であっても、犯行の足跡は必ず残る。それを丹念に辿っていけば、必ず真実をつきとめることができる」
わたしは、こくりと頷いた。
「第二に、相手の欲望を逆手にとって、相手をいつもとは違うパターンに誘い込み、そこに陥穽を仕掛ける……公爵の邪悪な欲望は、それ自体彼の弱点であり、それを利用して破滅へと導くのだ――」
シャルルは、静かな口調で語っていたが、その実、選ばれた言葉には激しいものがこもっていた。わたしの心は奮い立った。
「――もちろん、これは戦略で、具体的な戦術はこれから詰めていく。……そして、第三に、実際に逮捕する段階に立ち至ったら、査察庁軍を投入する。何も僕たち二人だけで決着をつける訳じゃないんだよ」
わたしは、帝国宰相を追い詰めるとなると、当然最後にはそういう事態になるということに、今更のように気付いた。査察庁軍、という言葉に、これ程身近な頼もしさを感じることがあろうとは……
――覚悟が決まると、次に具体的な計画が欲しくなるのは人間の性だ。
……戦術を考えることによって、勝利への予感が高まり、決心がかたまる……そして、何よりも、考えている間は余計な不安を感じずに済むのだから……

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