『天使の翼』第7章(31)
「……ええと、話を元に戻すわね……大司教様の政庁の忙しさは、ちょっと譬えようがないんだけれど……いってみれば、謝肉祭……そう、謝肉祭の狂乱状態が年がら年中途切れることなく続いているようなものかな――」
――ジェーンは、頭の切れる女性らしく、いくつかのトピックスを選んで、面白おかしく政庁での日常業務を語ってくれた……多くの肩書きを帯びていれば当然考えられることだけれど、たとえば、政務局で処理すべき二つの案件が互いに利害が衝突するようなときどうするのか?――そういう時は、合理性および適法性審判委員会なる一種の裁判で優先順位を決めると言う……毎年、年度の切り替えの時期になると、総務局に大量の印刷物の発注・事務用品の請求が集中し、到底通常のスタッフだけでは対応しきれない――わたしとシャルルは、ジェーンのこの話から、一番知りたかった情報――『消耗備品課』――という、とてもさりげない、ありきたりの名称を得た……ある宗教行事に列席する大司教の装束箱に、あろうことか、夏のバカンス用の派手な原色の私服が入っていたこと――大司教は、顔色一つ変えずに、その時着ていた服装のまま――幸い僧服だった――儀式を執り行った――最初、ジェーンは、普段から無表情なことの多い大司教様は、謹厳実直なだけでなく、些事にとらわれない温厚な人物という印象を持ったのだが、後から、事件――と呼べるかどうかは別として――の責任者と担当者が、十一人も!政庁を懲戒解雇されたと聞いて、心の底から驚いたと言う……
ジェーンは、スカルラッティ公爵のことを『大司教様は冷酷なお方』と表現した……

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