『天使の翼』第7章(30)

 「……本来は縦割り社会の象徴である『肩書(タイトル)』を、大司教様という一人の人間が抱え込んでしまったが為に、皮肉にも、それを処理するには、領主権・政務・宗務・企業活動という四つの分野に分けた、巨大な横割組織『政庁』が必要になった、という訳だね――」
 「そう、うまい表現だわ。たとえば、ABC社の株主総会における議決権の行使とか、複数の領星に存在するプランテーションの経営、アクィレイア産業協会の事務、持株会社スカルラッティ・ホールディングスの運営、そういったものは、すべて、企業局長をトップに頂く企業局の同じ職員達の間で集約的に処理されるのだから……」
「つまり、太古の歴史にあったという一党による政党支配のようなものね」
 わたしは、話を聞いていて、頭に浮かんだ考えを言葉にしただけだけど、もしかしたら、シャルルとジェーンの会話に割り込みたいという意識も働いていたかもしれない……
 「なるほど……シャンタルさんて鋭いのね」
 わたしは、ジェーンにじっと見詰められて変な気分だった。
 「『政庁』は、はじめこそ必要から生じた機関だったけれど、一度生まれ落ちるや、巨大な圧力機関として、個々の組織、それこそABC社や、君の言っていたアクィレイア=ウラール大修道院に支配の手を伸ばしている――」
 シャルルが、わたしの言いたかったことを分かり易く代弁してくれた。
 「――大司教様の権力は、政庁と言う機関を通して行使され、強化されている……一人の人間が多くを支配するには、またとない手段だね」
 そう言ってわたしの方を見たシャルルの目には、改めてスカルラッティ公爵の持っている侮りがたいパワーに対する警戒の色が、そして、政庁には汚れ仕事をする闇の組織、つまり悪の手下がいるのだという確信が浮かんでいるようだった。……もちろん、悪の手下は、表立って政庁とつながっている訳ではない。そのような存在は、言下に否定されるはずだ……

 わたしは、シャルルに小さく頷き返した。