『天使の翼』第7章(29)

 「話が逸れてしまったけれど、……そう、大司教様の政庁の忙しさのこと……ごくプライベートなことを除いて、大司教様の関係する業務は、すべて政庁に一元化されています。その意味で、政庁イコール大司教様、と言っていいでしょう。その長官は、帝国宰相とアクィレイア大司教という二つの特別な権能を除いて、真に法的な意味において大司教様の代理人とされています――長官は、大司教様の兄君です。長官の下には、まず官房があって、大司教様のスケジュールからスカルラッティ家の財政まで、ありとあらゆるものを調整するのです。彼ら秘書官たちは、エリート中のエリートで、数名の例外を除いて、皆コスモス・カソリクスの司祭です。彼らにとって、政庁での仕事は、出世の階梯の一段に過ぎません。官房の下で実際の仕事をこなすのが総務局です――」
 わたしは、運ばれてきた食事に手をつけながら、公爵の文具を扱うのは、この総務局だろうか、と思い巡らした……
 「――そして、肝心の実務の方は、領主局・政務局・宗務庁・企業局の四つに大きく分かれています。逆に言えば、大司教様には、領主としての顔・政治家としての顔・宗教家としての顔・企業家としての顔がある、と言うことだわ……あらゆることに係わっているのよ……たとえば、今私が欲しくてしょうがないエア・バイクの最大手ABC社の大株主であってみたり――」
 わたしは、少なからぬショックを受けた。
 「――アクィレイアを歩けば、大司教様に当たる、という訳」