『天使の翼』第7章(28)

 「――そもそも、肩書きが多過ぎるんです――スカルラッティ公爵、アクィレイア大司教、銀河帝国政府宰相……それだけでも十分すぎるのに、リン侯爵だのツァプラ伯爵だの、大司教様ご本人だってきっと覚えてないような無数の爵位を保有していて、その上で、やはり無数の公的・私的な機関、政治上・宗教上の機関に名を連ねているのだから……私、政治上の組織の方にはあまり詳しくないですけど、宗教面だけを見たって、アケルナル本庁の無任所の枢機卿、アクィレイア=ウラール大修道院長、教会法編纂委員……もう肩書きを並べているだけで頭が混乱してくるわ。大司教様が本をお書きになれば、奥付の肩書きだけで数十ページかせげるわね……どうして、他の人にタイトルを分けてあげないのかしら」
 『大司教様』――
 ――そもそも、スカルラッティ公爵――と、わたしとシャルルの間では呼び習わしている人物――を、何と呼べば、どの肩書きを使って呼べば、最もそのパーソナリティーを的確に表したことになるのか……推定上の連続殺人鬼、と言ってしまえばそれまでだけれど、それすらも、この複雑な人物の本性を見失わせるに十分な落とし穴だ。――シャルルは、ジェーンの前では、巡礼の吟遊詩人を装って、『大司教様』と呼び続けた――
 「大司教様の数々のタイトルは、はたして、明かりに吸い寄せられる蛾のように自然と集まってきたものか、それとも、大司教様御自身が捕虫網を振り回して捕えたものかは、本人に聞いてみないと分からないけどね――」
 ジェーンは、肩をすくめて――
 「わたしは、絶対に意識して集めたのだと思う――大司教様って、きっと蒐集狂よ……」
 『蒐集狂』――その言葉に、わたしは、はっきりと形は定まらないものの、何か胸を締め付けられるものを感じた……既視感?……不安感……




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