『天使の翼』第7章(25)

 目ざとく遮音装置の作動していることを示す小さな緑のランプに気付いたジェーンは、ボックス席の内部に一歩踏み込んでから、両腕を広げて見せた。
 「私のこと二重人格だと思った?」
 どうやら、わたしとシャルルは、二人してあんぐりと口を開けて、彼女の変身ぶりに目を奪われていたようだ。
 彼女は、ちょっとためらってから、ドスンとシャルルの隣の席に腰を下ろした。グラマーなので存在感がある。
 彼女は、ちらとわたしの様子を窺ってから、シャルルに笑顔を向けた――何の屈託もない、好意だけがにじみ出たような笑顔……
 やれやれ、ダイアンの次はジェーンだ。わたしは、二人ともシャルルのタイプ――そんなものがあるとして――の女性だとにらんだ。
……このタイプの女性の困ったところは、やたらと積極的なことだ。
 「……コスモス・カソリクスの新しい制服に乾杯!……」
 シャルルが、及第点には程遠いものの、とっさのジョークで急場をしのごうとした。
 聖堂での時とは打って変わって、ジェーンが、余裕の素振りで、右手を挙げて軍隊式の敬礼の真似をして見せた。くつくつと笑って――
 「コスモス・カソリクスにおける聖俗の観念は、あまり知られていないことですけれど、今を遡ること遥か昔、銀河帝国第二王朝の揺籃期に、時の総大司教レオ五十六世によって、完全に内面の問題、精神上のことと定義されました――」
 「アケルナルの回勅ですね……」

 ジェーンは、改めてシャルルを見直した。




* 『天使の翼』は、上記3つの検索サイトに登録してあります。

こちらのリンクバナーをクリックしていただけると

人気ランキングに加算されます。

「いいね!」の方は、よろしくお願いいたします!