『天使の翼』第7章(24)

 スーっと、店の中の空気の動く気配がして、頬を冷たい空気の繊細な指先で撫でられたように感じたわたしは、カフェの入口の方を振り返った。――吟遊詩人であるわたしの体は、まるでそれ自体一個の共鳴楽器であるかのように、重力などの大きな力の変化にも、そして、ささやかな空気の振動にも反応する……
 わたしほど敏感でないシャルルも、つられて振り返った。
 わたし達の視線は、最初何も変わったものを捉えなかったが、数秒後――と、わたしは感じた――に、壁の向こうから、ジェーンが角を回って姿を現した。
 シャルルは、わたしのこのちょっとした予知能力に驚いたかも知れない。が、そんなものはすぐに消し飛んだ――ジェーンのイメージががらりと変わっていたのだから……
 シスターの衣装を脱いだ普段着のジェーンは、まさに現代の学生――というより、どちらかと言うと、おしゃれに気を使って自分の魅力をアピールしたいと思う女の子で、わざと着古した感じの、腰から足にかけてのラインにぴたっと張り付いたようなパンツや、ウエストでぎゅっと絞ったアウターが、とてもセクシーだった。頭巾の下に隠されていた髪の色はブロンドで、背もすらりと高く、体全体から自信に満ちたオーラが放たれている。
 わたしとシャルルは、思わず顔を見合わせていた。……考えてみれば、シスターのお仕着せと違って、普段着は、素直に彼女の人格を表しているのに過ぎないのかもしれなかったが……